ていただいてお話を承りましょうか。だんだんもつれて、これから何がでてくるか分らない形勢になりましたな。陽のあるうちに現場の調査が一応終ってくれればよいが」
卓上の置時計が三時をうった。一風変った美術的な時計だから音も澄み渡って美しいこと夥しい。だが、ふりかえって時計を見た人々は、時報と同時に妙なことが置時計の中ではじまったので驚いた。装飾のある円柱の上に文字盤がある。その円柱の左右に一人ずつの女の踊り子の像が立っていたが、時報と同時に、この踊り子が踊りはじめた。踊りながら円柱を各々半周し、中央ですれちがい、踊りが終ったときには、右にいた踊り子が左に、左にいたのが右に、入れ違って静止した。次の時報になると、また入れ違うのであろう。手のこんだ置時計であった。
「これは珍しい時計だ」
と虎之介が驚いて音をあげると、
「いえ、この程度のことは普通です。もっともっと手のこんだ仕掛け時計はざらにありますよ」
と川田が虎之介をたしなめた。虎之介がむくれたのは云うまでもない。この一言で、虎之介の犯人は川田にきまったようなものだ。
★
大伍が現れたので、新十郎は足労を謝し
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