食いつめたあげくが自由党の壮士となって結成式に板垣総理万歳を叫んだ。それも暮しの工夫なら無いよりはマシだが、二三年のうちに彼の自由思想はさッさと死んで、兄貴のところへころがりこんだ。たまたま病床につきそめて不自由をかこっていた全作がどこを見こんでか看護人に選んだ。
「お父さんはずるいのね。叔父さんが大きな顔で居候できるどころか、お給金までいただけるのもお父さんの病気のせい。死んでしまえばクビだもの、喜々として看病にはげむ道理ね」
妙子は薄笑いを浮かべて考えた。
先妻の子は妙子だけだ。サナエの実子は雄一という八ツの息子一人であった。サナエにとっては、全作というヤッカイ者は早く死んでくれるに限るのである。ケチンボーで家族へのあたたかい愛情などは影すらもない。この冷血動物がくたばりさえすれば、家をつぐものはわが子である。サナエにとって牢屋にすぎなかったこの家にもたちまちにしてランマンの春が訪れる。
妙子の一考したところによっても、このオヤジのくたばる方が世のため人のため自分のため功徳となるに相違ないと思うけれども、さて実際に死んだとなると、諸事につけて功徳をさずかるだけとは限らない。
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