このオヤジの生きてるうちは妙子の半分だけは時信家の実子であるが、彼が死ぬと、実子の半分も消え失せて、継子が全部になってしまう。継子も居候の一種かも知れないから鼻ヒゲをたてた仕事熱心の看護人を図にのって笑ってもいられない。かりにも子の字がついてるから心やすくクビにできないかも知れないが、その方がむしろツキアイがむずかしいや。
「看護役は居候に限るにしても、オヤジ殿は目が高いや。私だったら始末のわるい小犬のように罵って便所まで追ってやるわ」
 妙子は病気に同情しなかった。同情とは人間が対象で、病気のせいではない。
 しかし、看護に熱心という点では大伍叔父が日本一ではない。早い話が彼にも全作にも姉に当る小坂オトメというお婆さんがはるかに一心不乱に看病するであろう。
 オトメは小坂主税という人のところへおヨメにいったが、主税はノンダクレで、給金も親の遺産ものみほしたあげく、酔ってオトメをぶんなぐる癖があった。今に見やがれと思っているうちに、ある晩主税が酔払ってよそのウチへあがりこんで、
「ヤイ、酒をだせ。ナニ、酒がない。なければ買ってこい。ナニ、酒屋は寝た、と。起きてる酒屋でのんでみせるから
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