った。彼女の受持は夜間である。なぜなら、全作は結核性関節炎という主病のほかに、神経痛にゼンソクに痔という三ツの持病があって、夜が大そう不安で怖しい。夜になると神経がたかぶって眠れないばかりでなく、しばしば激痛が襲いかかって死の恐怖と闘わなければならなかったからだ。
夜の十時から朝の七時までが成子の勤務時間であった。全作の不安は夜があけると落ちつくから、朝食を与えて七時ごろ彼の睡眠を見てひきさがる。
大伍の勤務は十時からだが、七時から十時までの三時間は女中のナミ子がつなぐことになっていた。しかし全作はその時間にはたいがいグッスリねむっていて、まず用はない。
さて、成子に代って昼の部をつとめる時信大伍がなぜ附添いに選ばれたか、これがどうもフシギであった。
サナエ夫人は夫婦甚だ相和さない十年間のツキアイがもとで笑いを忘れた女であるから、身辺の世話を女房に頼みたくない全作の気持はわかる。けれどもいかに血をわけた弟にせよ、鼻ヒゲをたてた中年男が病人の糞便の始末を職業とするのは適当だとは思われない。大伍は若年のころは放浪癖があって、中年に至るまで何をやっても成功せず、四十の年配にあっても、
前へ
次へ
全55ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング