横に入口のない石室が現れたのです。一枚三畳もあるようなフタの石が五ツも六ツもあるのですが、その一番小さそうなフタを持ちあげて外さないと中へはいることができないのです。一般に、古墳の石室には横に小さい入口があります。ところが、この古墳は大石のフタを外さないと中へふみこめないのです。そのために千年の余も盗人に掘られることがなかったのでしょう。村の者が集まって、大がかりに力を合わせて石を一枚外しました。すると、盗掘をまぬかれたせいか、または特に貴人の墓のせいですか、中から現れたものはピカ一の名品ぞろいでしかも多くが昔のままの姿をそっくり今にとどめていたのです。珍しい金銀宝石をちりばめた太刀も短剣もそっくりで、飾りの金は光っていました。ヨロイもありました。マガ玉の類は二千箇もでたそうですよ。百姓どもが発掘中に失敬して報告しなかった分を合わせると三千以上はあったのでしょう。しかし、それらの品々は他の古墳でも見られる種類のものでした。驚くべきことには、そのほかに多くの美術的な仏具が現れました。古来、古墳は仏教渡来以前のものと考えられていたのです。出土品に仏具類がないための断定にすぎませんが、特に横
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