があったのですね。むろん、そうにきまっていますが、その事情を御存知でしょうか」
「私はバンカーにすぎませんから、彼の求めによって五万円さげてやっただけです。事情はたぷん故人の弟の大伍君、つまり銀行へ来た使者の人ですが、彼が知っているでしょう。しかし、三万円でも十万円でもフシギではないが、五万円という金額はちょッとタダではない。五万円に限って、彼のウミの匂いのようになんとなく臭いようですよ」
「それは?」
「結城さんは洋行からお帰りになって間もないから御存知ないかも知れませんが、あれは今から四五年前になりましょうか。一色又六の事件を御存知でしょうか」
「あいにく当時は洋行中です」
「一色又六は群馬県の小さな村の役場の小使です。役場の小使に落ちつくまでには、日本はおろか支那へまで行商にでかけ、そこで無頼の生活をしてきたような気性のはげしいナラズ者なんですね。ところで彼が役場の小使をしていたとき、村の誰かが珍しい古墳をほり当てたのです。群馬県は古墳の多いこと、また大古墳の多いことでは東国随一なんです。百姓が山上に畑を開墾するツモリで掘りあてた古墳でしたが、特に大きい古墳というほどではないが、
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