夕食したりで、なかなか現れてくれない。まず現れたのは川田であった。
「病人はまだおやすみだって?」
「お食事が冷くなってしまったわ。お昼食もお夕食もまだなんです」
 川田のあとからそッとついてきたらしいオトメが叫んだ。
「大変だわ。神様のお告げの通りよ。きッと悪いことが起っています。どうしましょう。心配でたまらないわ。ホラ、胸騒ぎのすること。さア、大変。ナム、クシャクシャ」
 ナミ子は思わずカギを握って立ち上った。なるほど様子が変だった。もっとも、ナミ子は助手にすぎないから、オルゴールの合図がなければ病室へはいることはまずなかった。だから病人の寝ている姿を見たことはめったにない。けれどもこの一日のことを全部綜合してみると、何から何までいつもと変っている。別に大そうな変りではないが、ガラリとふだんと違うことは確かであった。
 ナミ子が燭台をもって歩きだすと、川田とオトメもついてきた。ナミ子は燭台をかざして、一風変った寝姿を人々に示した。毛布をかぶっている。しかし、背中をまるめて俯伏しにねていると思ったのはマチガイだ。セムシだって、こんなに背中はとがるまい。ナミ子はその異状に気がついた。と
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