、同じことを見てとった川田が毛布をつかんで、そッとあけた。顔色が変った。
「ヤ。ヤ。血だ。アッ。殺されている!」
懐剣が病人の背中をブッスリ突き刺しているのだ。全作は冷くなってことぎれていた。七時三十五分であった。
★
翌日一日、警官たちが二階でごッた返していた。家族は下の小部屋に閉じこもって、わが家を占領した人々の乱暴な動作に呆れていた。この家でこの荒々しい動作が可能だということすらも人々は今まで考えたことがなかった。人々が鉄工所の中や工事場でしているような動作が、このキチンとした家の中でもやろうと思えばできるらしい。
人殺しだって、こんなに思いきった荒々しい動作でやりやしないだろう。
我慢しかねて抗議したのは、この家の者ではなくて、見舞いに来てくれた川田であった。もっとも彼は発見者の責任もあった。
「広間の陳列品は日本の一流の美術品だから気をつけて下さいよ。骨董屋の店先に並んでいるピカピカしたガラクタとは物がちがう。一ツでも、何万、何十万という珍品ぞろいだ。この品物と一しょにいると、品物が持主を殺したがるに相違ない。品物の面魂《つらだましい》を見てご
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