じられないことだ。ケチンボーというべきではなくて、家族の人格や値打を根元まで歯のすりきれたゲタの程度にしか認めていないことであろう。だが、ケチとは要するにそのことでもある」
 川田は家族たちが全作を嫌うのは尤も千万だと思った。彼もこの友人が好きではない。だが全作のコレクションには魅力があった。奴メが死ぬとコレクションはどうなるか。気にかかる大問題であった。数は多くはないが、粒よりの一級品であった。
 大伍らが午の食事中であったから、川田は座をはずした。陳列室の外側の廊下をブラついた。控えの部屋にナミ子がいたから、
「御主人のゴキゲンはどうだ?」
「熟睡していらッしゃいます」
「御主人の今朝のお買上げ品を見たかい」
「いいえ」
 女中には見せまい。川田は諸方をブラブラ歩いた。カギのかかっている部屋以外は遠慮なくのぞいて歩いた。庭へでて陳列室を見上げると、窓は全部閉じられていた。初夏にちかい陽気だというのに、真夏以外は概ねこうだ。窓をあけるとゼンソクにわるいという信条のせいにもよるのだが、空を吹く風には植物鉱物動物どもの雑な呼吸がこもっているから吸う人の胸壁をむしばむ悪作用があると信じて疑
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