早鐘のように鳴りだした。大変なことになった。思い当ることがありすぎる。
 これだけ探しても見当らなければカギは盗まれたに相違ない。ドアの開けたてごとに大伍はカギを使っていたが、あれは彼のカギだし、開けたてごとにカギをかけるのは彼のいつもの習慣だ。
 伊助がこの部屋に大伍の帰りを待っていた一時間あまりの間はナミ子がこの部屋にいなかった。伊助がカギを盗むことはできるが、彼にはその必要がなかろう。また、伊助が一人で居るとき誰かが来てカギを盗み去っても、伊助はその目的に気づかないであろう。
 けれども、誰よりも疑わしい犯人にナミ子はまッさきに気づいていた。オトメが早々に現れて、死神をおとすおイノリと称して、タコ入道の踊りのように合掌の手をふりまわした。二本の手が八本以上にも見えたほどクネクネと目をあざむくばかり、予測しようもない動きであった。あの怪しい手が盗んだのかも知れない。そして、他の誰に盗まれてもさしたることはないが、オトメに盗まれたとなると気がかりである。三日にあげずやって来てムリにも中へ入りたがるが、カギがあれば自由に忍びこむことができる。
 ナミ子はふと気がつくと、おどろいて、跳び
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