、本を読んでるうちについウトウトしかけたり、ふと気がついて本の続きを読んだりした。ウトウトしたと云っても、二三分間のことだ。安心はしていても、ナミ子は役目を忘れなかった。その心がけを見こまれて全作が特に係りに選んだのだ。ナミ子はその責任も感じていた。だからウトウトしても物の気配を感じる程度に、浅く、また短かかった。
 思いがけなくオルゴールがなった。ちょうど時計が十一時をうってるところだった。一時間しかたたないのに、もうお目ざめかとナミはおどろいて立ち上った。習慣はこういうものだ。七時にねて十一時に目をさます人は十時にねても十一時に目がさめる。ナミ子はドアへ走った。
 ドアにつづく壁際に小卓があって、成子のカギはいつもその上に置かれていた。勤務時間が終ると、成子は自分のカギをそこへ置き残して去る。ナミ子はカギを持たないからだ。
 カギは二ツあった。一ツは大伍が持っていた。大伍はカギを肌身離さなかった。
 小卓の上を見たが、ある筈のカギがない。ナミ子は卓の下を探した。それから、部屋中を探しまわった。オルゴールが同じ歌を六七回もくりかえして鳴りやんだのに、カギが見当らない。
 ナミ子の胸は
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