がっていなさい。お茶をあげるがよい」
こう云いのこして、大伍は急いで階段を降りた。ナミ子も云われた通り、伊助を残して下へ降りた。一度だけ茶菓を運んだ。伊助はイスの中に深くめりこんで目をとじていた。
★
大伍が戻ったのを認めたから、ナミ子はその後について二階へ行った。大伍は伊助をみちびいて再び陳列室へ消えた。十五分すぎた。ナミ子は柱時計を見ていたのだ。やがて二人はそろって病室から退出した。ヤレヤレ、これで用がすんだと、大伍が出てきてドアを閉じたと思うと病室のオルゴールが鳴った。「来い」という合図のオルゴールだ。大伍はとって返したが、一分もかからぬうちに戻ってきた。
「さて、用がすんだ。ナミはお連れした道を通って、伊助さんをお送りしてあげるがよい。庭木戸から出て塀に沿うて門まで、アベコベに一通りやりなさい。来るが如くに去る。去るところを知らずかね。伊助さん。ゴキゲンよう」
伊助は無言で頭を一つペコンと下げただけだ。重い荷を背負って歩きだした。まったく来た時も去る時も、伊助は同じであった。重い顔、無言、そしてテクテク歩いてる。
「織物を買っていただいたんですか」
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