訪客は何よりも危険人物だから、
「いけません。いけません。この時間はいけません。お休の時間です。お客さまはもとより奥さま坊ちゃまですら御面会は夜の七時から十時までと定まっています。そのことは御存知でしょう。ましてあなたは面会の御許しがないのですから、ここへ近よるのも御遠慮なさるのが当然です」
ナミ子は立ちはだかって制したが、ムキになりすぎて語気が荒かったから、オトメを怒らせてしまった。
「私はこのウチの長女だよ。全作さんにも姉に当る私だよ。女中風情が、無礼じゃないか」
「それはすみませんでしたね。ですが、私の役目ですから、お通しするわけには参りません。大声もいけません。この時間には皆さんが遠慮なさるのですよ」
「ですがね。今日は来ないわけにはいかなかったのよ。神様のお告げなの。私が見ていてあげないと、あの人は殺されるのよ。神様がハッキリそう仰有《おっしゃ》った。マチガイはありません」
ナミ子の制止がきいて、にわかに遠慮ぶかい小声になったが、目はギラギラ光っていたし、激発を押えている意気ごみが察せられた。思いがけない言葉で、小声のためにかえって薄気味わるかったが、この婆さんが狐ツキの
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