近いが、このドアはカギをかけたまま開けてはならぬ定めであるから、廊下を一曲りして控え部屋へ案内した。ここに大伍が待っていた。二階は陳列室と控え部屋の二間しかない。陳列室は南北に十二間、東西に五間の広間。北と西が廊下で、西の廊下を突き当ると控えの間。突き当って折れると玄関へ通じる階段だ。
「伊助さんだね?」
 大伍は立ち上って訊いた。彼は初対面らしい。
「そうです」
 と答えると、大伍はだまってうなずき、ドアをあけて伊助を兄の部屋へ通したのち、
「誰が来ても中へ入れるな」
 ナミ子にこう命じた。内部からドアのカギをかける音がした。
 ナミ子は伊助を見分けることができるかと心配だったが、織物の行商人は一目でたちまち判るものだ。上体の倍もあるような矩形の大包みを背負ってるから、きかなくとも分った。塀についてひろい庭を半周させるのが気の毒だから、
「重いのに大変ですね」
 と云うと、
「なれてるから、なんでもない」
 と答えた。なるほど小男ながらガッシリと逞しい骨格であった。二人の会話はそれが全部であった。
 ナミ子が一人になって十分ほどたつと、急いでやってきたのはオトメであった。この無遠慮な
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