たね」
「そうだ」
「算えてごらんなさい。十本しか有りませんよ。記憶ちがいではありませんか」
「そんなことはない」
天狗も自ら算えてみたが、たしかに十本しかないので、また要心深い顔をした。
「ここに居る一人が、いま隠したのではないか」
「よく改めてごらんなさい」
彼は矢の箱に要心深くフタをしてから、一同を順に改めた。神の矢はどこからも現れなかった。新十郎は遠慮なく質問した。
「以前にもこんなことがあったタメシはありませんか」
「一度もない」
「矢の数は算えることがありますか」
「一年かかって三十本の神の矢ができるようになっている。多くも少くも造ることはできないのだ」
「現に一本足りないではありませんか」
天狗は返答しなかった。要心深く一同の顔を見廻しているだけであった。
一行は天狗に別れて山上のホコラへ行ってみた。ホコラの中は額や絵馬の代りに猿田の面でいっぱいだ。中へ納めきれないのが、外側にもたくさんぶら下ッていた。面は少しずつちがっていた。作者がちがうのだろう。自作の面を納める習慣だという。
新十郎が先に立って一同は岩づたいに谷の方へ降って行った。
「ほら。そこにも、ここに
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