。これは何だろう? 昔からこうなっていたのだろうか? ここへ板を張りつける必要はなさそうだが」
正面に五寸四方ぐらいの板が張られていた。特別な事情がなければ意外の念も起さずに見逃すのが自然であろうが、特に意味を考えてみると、理解に苦しむ板である。
幸いイナリを作った大工が今も出入りしていることが分ったから、訊いてみると、
「左様です。それは初めからそのように作ったのです。奥様がこの板を持参致されて、これを正面中央へ打ちつけて下さい、と仰有《おっしゃ》いましたのでね」
新十郎はイナリのホコラを解体させて、打ちつけた板をはがした。板の裏面に次のような二行の字が書かれていた。
「大加美稲荷大明神
今居定助明神」
今居定助とは、蛭川真弓と同様に神の矢で殺された先代の番頭である。
「殺された番頭と殺した神様がこのホコラに並んで祀られるのに一応フシギはないかも知れないが、板を裏がえしに張りつけておいたのはどういうワケでしょうね。とにかく現地へ赴いてオーカミイナリの本家について調べてみなければ全然見当がつきかねますよ」
新十郎一行はその翌日旅にでた。
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今は賀
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