かウンとは云わない。それどころか、せせら笑って、
「松之助は手に職があるかえ?」
「だからさ。私が甘やかして育てたばかりに、手に職がないから気の毒なんだよ。ここの養子になれば、大勢のアンマを使って、ちょうどいいじゃないか。指図ぐらいはできるじゃないか。目があいてるし、手も書けるよ」
「ウチのゲジゲジにひッぱたかれるよ。指図ぐらいできるたアなんだい。お志乃だって、片目があるし、手も書けらア。ウチのゲジゲジは働きのない人間ほどキライなものはないてんだよ。私がウンと云ったって、ウチのゲジゲジがききやしねえ。私にしたって、ゲジゲジに頭を下げてまで、ウスノロをムコにもらいたかアねえヤ」
「ちょッと! 松之助はウスノロじゃアないよ。目から鼻へぬけたところだってあるんだよ」
「よせやい。ぬけたところも、とは聞きなれないね。一ヶ所だけ目から鼻へぬけたてえ人間の話はきかないね」
「じゃア、なにかい。手に職をつけたら、松之助をもらッてくれるね」
「私ゃ知らないから、ゲジゲジに相談しな。ゲジゲジがウンと云やア、私や反対しないよ」
 むろん銀一がウンと云う筈はない。アンマのウチはアンマがつぐにきまったもの、と
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