云うのが彼の断乎たる持説である。彼が常々その持説を主張するから、弟子のアンマもその気になっていた。角平が二十六。弁内が二十四。どッちも良い歳だ。ヨメでも貰ってよそへ間借りして開業しても、ケチンボーの銀一についてるよりはマシな暮しができる筈だが、ここのムコになれるかも知れないと思うから、ゲジゲジや化け物にガミガミ云われながら辛抱している。それは十八の稲吉にしても、そうだった。兄弟子は二人ながらバカヤローだから、こッちへ順が廻るかも知れねえと考えている。
「物を云う時には横を向け。手前の口は臭くッて仕様がないや。ヌカミソ野郎め」
角平は日に一度や二度は銀一とオカネにこうどやされる。それでも歯をみがこうとしないのである。
弁内の大飯《オーメシ》と早飯《ハヤメシ》は物凄かった。誰よりも素早く余計にかッこもうというコンタンだ。
「手前のゼニで腹のタシマエができねえかよ。一人前の若い者は、稼いだ金はキレイに使うものだ。唐変木め」
と、オカネに年中怒られているが、それぐらいのことで弁内の早飯がのろくなったことはない。奴めは稀代の女好きで、アンマのくせに岡場所を漁るのが大好物なのだ。そのために年
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