中ピイピイしているのである。
稲吉は十八ながら要領がよかった。覚えもよくて、十五の年にはもう流しアンマにでるようになった。見習い中は笛をふいて流しにでるのが昔のキマリだ。奴めは五人お客をとると、今日は三人でござんした、と報告して二人分はうまい物を食ってくる。
もっとも、これはどこの若いアンマもやることだ。けれども、要領が悪いから、みんなバレてしまう。彼らがバカなわけではなくて、どこのアンマの師匠もサグリを入れる天才をもっているからだ。五六十年も目のない生活をしていれば、その期間というものは他の感官をはたらかして常にタンテイしているようなものでもあり、カタワのヒガミがあるから人の何倍も多く深く邪推して、サグリを入れる手法には独特の熟練を持っている。
銀一もサグリの名人だが、一方オカネ婆アは片目の半分を活用して、メクラどもに泥を吐かせる大手腕をもっていた。
「オヤ。お前の袖口にオソバがぶらさがッてるよ」
なんて、メクラには何も見えないから、アノ手コノ手と攻めたてて、いつのまにやら泥を吐かせる。角平や弁内はいい齢をしながら今でもオカネ婆アのサグリにあうとコテンの有様である。ところが稲
前へ
次へ
全46ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング