吉は、若いながらもこんなサグリにはかからない。
 その上、商法上のカンと要領が生れながらに発達しているから、上客を知りわけてサービスよろしく可愛がられるコツも心得ており、よその流しアンマの何倍もオトクイがあるのである。しかし上トクイがタクサンあるということなぞはオクビにだしたこともなく、稼ぎの半分は師匠にかくして使っているが、殆ど見破られていないのである。
 このように要領のよい稲吉だから、心の中では兄弟子どもをことごとく甜《な》めきッていた。オレは十八、お志乃は十九。別に奇妙な組み合わせではない。角平だの弁内なんぞがオレをおいてお志乃のムコになれるものか、と内々思いこんでいた。
 ところが、ちかごろ風向きが変ってきた。
「腕がよくッて、気がやさしくて、利口で、広い東京にも二人と見かけることができないような若いアンマがいるが、お志乃のムコにどうだい」
 と云って、話を持ちかけてきた人がある。オカネと銀一が会ってみると、なるほど気立てのよいメクラだ。そして、腕もよい。
「腕と云い、気立と云い、顔かたちと云い、人品と云い、ウチの唐変木どもとは月とスッポンだよ。ウチの野郎どもときたひにゃア、
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