拘らず無類にメクラのカンがよかったそうで、よはど耳が発達しているのかも知れません。彼はこうして偶然にもオカネの貯金場所を突きとめる機会にめぐまれました。その上、人形町はアンマがふえて仕事が少くなり、お志乃のムコも殆ど定まってしまったから、ここを立ち去る自然の時期もきている。いつヒマをとっても人に疑われる怖れがないのだから、行きがけのダチンに、とさッそく機会を狙いはじめたのでしょう。あの晩はその絶好の機会でした。銀一は妾宅へ、お志乃は旦那のところへ、二人の帰宅はおそいにきまっています。流しの稲吉は一時すぎなければ戻ってこないし、自分と一しょにここを出た弁内はいつものお客のほかに後口もあるという。これもタップリ二時間あまりは戻る筈がない。しかも彼自身がよばれた先は、妙庵はいったん眠りこむと正体もなく、また仙友は自分に後を託して居なくなるというオキマリのところです。オカネは彼の出がけにはすでに茶づけをかッこんでいたから、妙庵よりも先にねこむに相違ない。そこで、妙庵がねこみ、仙友が抜けだした後に彼もそッと抜けだして、ここへ戻ってきてオカネを殺し金を奪って肌身につけ、何食わぬ顔で妙庵のところへ戻
前へ 次へ
全46ページ中43ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング