壺は、その縁の下からとりだしたタタミのフチで、フタをあけたり中味をとりだしたりされていました。これもクラヤミで処理されたことを示しています。全てがクラヤミで処理されたことを示しているにも拘らず、現場は実に整然として、クラヤミにつまずいてひッくり返した物品すらもないのです。クラヤミの動作に熟練した者でなければ、よそのウチへ忍びこんで人殺しをして、タタミやネダをあげながら、こんなにムダのない仕事の跡をのこせるものではないでしょう。しかもいつ誰が戻ってくるか分らない限られた時間のうちの仕業なんですから」
新十郎は虎之介の方を見た。彼はムクレて大目玉をむきながら、うつむいた。新十郎は語りつづけた。
「オカネは結婚後も良人《おっと》と財産を別にしていました。それほど己れの貯蓄を熱愛する者が人に知れるところへ金を隠しておく筈はありますまい。しかし、いかに要心深いオカネでも、度を失って隠し場所をさらけだす場合がありうるのです。その最もいちじるしい例が近火の場合です。まさしくオカネはドッタンバッタン慌てふためいてタタミをあげネダをあげました。そのときここに居合せたのは角平と稲吉でした。角平は石頭にも
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