ってもみつづけていたのでしょう。こんなときに、妙庵がふと目をさましても、その目をさましている時間は長いものではないし、程へて再び目をさましても、前後の目覚めにハッキリしたレンラクや時間の距離の念があるものではありませんから、ちょッと便所へ行っておりまして失礼しました、と云えば、ああ、そうか、ですんでしまい易いものです。酔っ払いをねむらせておいて一時間ぐらい遊んできて再びもみつづけてもたいがいは分るものではないのです。もっとも、一部分だけもんで手をぬくと、敏感なお客には目がさめてのち、もまれたところと、もまれないところがハッキリ区別がつくそうですが、角平は再び戻ってきて、それからタップリ二時間ももんでいたのですから、妙庵は彼が中座したことを全然気がついていないのです。角平は非常に巧妙に自分がメクラであることを利用して事を行いましたが、あんまり巧みにやりすぎたので、犯人はメクラであろうという証拠まで残してしまった始末なのでした。あんまり巧みにやりすぎるのも、良し悪しですよ」
 と、新十郎は語り終って、微笑した。

          ★

 海舟は虎之介の報告をきき終ってのちも、しばし余念
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