的な二階建長屋づくりだ」
 彼は階下階上ともにテイネイに一部屋ずつ見てまわり、台所も、便所も、便所の前の三坪ほどの庭も、眺めて廻った。特にオカネの殺された部屋では中央のタタミをあげ、ネダの板を一枚ずつ取りのぞいた。どの板も元々クギを打った跡がなかった。
 この日の彼の調査は、それで終りであった。彼らは帰途についた。
「銀一とお志乃に会うのは明日にしましょう。急いで会う必要もありますまい。家族は六人、目は一ツ半。古田さんでしたね、そう仰有ったのは。見える方の一ツ半を考えるよりも、見えない方の十半を考える方が重大かも知れない。しかし、まだ私には分らないことが一ツある。それをやッぱり私自身が頭の中で突きとめなければ意味をなさない」
 新十郎の思いつめた呟きをきいて、花廼屋も虎之介も古田巡査も呆然また呆然の顔々。
 虎之介は血を吐くような深所からフワフワした声をふりしぼって、
「バ、バカな」
「ナニがですか」
「犯人が判ったわけじゃアないだろう」
「犯人は判っております」
「春さきはフーテンがはやるものだね」
 新十郎はクツクツ笑って、
「明日、正午に私の書斎に落合いましょう。そして、人形町へ
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