から、いろいろきいたが、敵はメクラだから、要所要所は一ツも知らないねえ。ちょうど人殺しの時刻には妙庵先生をもんでたそうだ」
「そうでしたねえ。その帰りにウチへ寄ったんだそうですよ。三時間の余ももませやがったとブツブツ云ってましたがね。その晩は妙庵先生の代診の仙友がウチへのみに来てるんです。仙友の奴、アンマに先生の肩をもませておいて抜けだすのだそうで。先生はアンマにかかると高イビキでねこんでしまう。そこで、あとはアンマにまかせて抜けだす。患者のウチから迎えがくると、今日はアイニク先生は不在でとアンマに断り口上を云ってもらう。その約束だから、アンマは仙友の奴が一パイキゲンで戻ってくるまで先生をもんでいなきゃアいけないそうで。仙友の奴はその晩ウチの女中にふられやがったもんで、中ッ腹で十二時ごろどこかへ消えてしまやがったが、ウチの女中もその晩、男とドロンでさア」
 話がさッぱり分らない。
「仙友とここの女中がドロンかい?」
「いえ、そのとき情夫《イロ》が店に来ていたもんで、仙友はふられの、女中はそのまま男とドロン」
「ふられの、ドロン? ふられた方がドロンじゃないのか?」
 新十郎はふきだして
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