み屋を利用するのは夜更けに限るらしく、あんまり客はいなかった。
こんな所でなんとなく話をひきだすのは田舎通人が巧妙であった。彼は二三杯でもう赤く顔をほてらせながら、
「二日前のことだが、、この先の清月てえ待合でオレがアンマをとっていたと思いなさい。ちょうどその時刻に、アンマのウチで婆さんが殺されていたそうだ」
オデン屋のオヤジがふりむいて、
「へえ、そうですかい。あすこのアンマはウチへもチョク/\見えますが、旦那をもんだてえのはどのアンマで」
「十七八の、まだ小僧ッ子よ。しかし、ツボの心得があって、器用な小僧だ」
「あの小僧ですか。あれは目から鼻へぬける小僧でさア。婆さんが殺された時刻てえと、いつごろでござんす」
「チラと耳にしたところでは、十一時から一時ごろの間だそうだが、その時刻はちょうどオレが小僧にもませていた時さ」
「その時刻かねえ。あの晩は、二時すぎごろに、ウチへも一人見えましたぜ。角平という一番齢をくッたアンマさ」
「そう、そう。そのアンマもオレがゆうべ清月へよんで肩をもませたよ。マッコウくさいお通夜の晩だから、よろこんで、もみに来たな。こッちは話がききたくてよんだんだ
前へ
次へ
全46ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング