に腰をかけたぐらいで、中へ上るわけにはいかないね」
新「それじゃア、あなた方は婆さんの逃げ支度のお手伝いはしないんだね」
稲「致しませんとも。メクラはそんな器用なことはできませんや」
新「そのほかに誰か手伝いに来た人はありませんか」
稲「こんな因業なウチへ手伝いにくるバカは居ねえや。もっとも、とっくに火が消えてから婆アの甥の松之助がきて泊って行きましたよ。一足おくれて、お志乃さんと師匠が戻ってきました」
弁内は話の途中から仕事にでかけた。その姿が見えなくなると、新十郎は話をきりあげた。外へでると、
「いろいろなことが分りかけてきましたね。足利の仁助という人の隣りの部屋が空いていて、弁内との話がききだせると面白いが」
新十郎がこう呟くと、古田巡査が、
「私が石田屋の主人にたのんで、やってみましょうか」
「では、そうして下さい。私たちは角平が夜更けの三時ごろ一パイのんで食事したというオデン屋でお待ち致しております」
新十郎らは古田に別れて、その一パイ飲み屋のノレンをくぐった。ちょうど夕食の時間ではあるが、この辺はお店者《たなもの》の縄ばりで、彼らはお店で食事をいただくから、こういう飲
前へ
次へ
全46ページ中31ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング