び声がどッとあがったから、下火になったらしいじゃありませんか、と訊くと、しばらくカマチへ腰かけて話しこんで戻って行ったね」
弁「オレにはそんな話はしなかったが、それじもア本当に寄ってくれたんだなア」
新「あの晩はメクラばかりで困ったろう」
稲「いえ、困ったのは婆アばかりで。あの婆アのドッタンバッタン慌てるッたら有りゃしねえな。たしかにタタミもあげていましたぜ。そのときウチに居たのは婆アのほかには、私と角平あにいだが、婆アの奴め、庭へ穴を掘れと云やアがる。表は一面に真ッ赤じゃないか。メクラにも火の色ぐらいは分らア。おまけに火の粉は降ってきやがる。穴なんぞ掘ってられやしない。とても庭に立ってられやしないよ。コチトラは焼けて困る物がないから、落ちついたものよ。イザといえば逃げられるように、出口に近いところで、外の様子をうかがっていたね」
新「婆さんがタタミをあげているとき、石田屋の人が居合わしたかえ」
稲「さア。どうかねえ。下火になったころは、婆アもどうやら落ちついたようだ」
新「その人は部屋の中へ上らなかったかね」
稲「上りやしません。私らがカマチの近いところに居たのだから、その人はカマチ
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