もテイネイによくもんでくれます。帰りがけにウドンやオスシなど食べさせてやりますから、それを励みに心をこめてもんでくれるんですよ。子供は可愛いものですね」
 と、稲吉はここで大そう評判がよかった。
 お志乃のアリバイもハッキリしていた。伊勢屋に三時ごろまで居たことは確かであった。伊勢屋の隠居は正直にこう打ちあけた。
「私はアレに情夫《イロ》があることを知っていますよ。約束の時間を時々おくれたりして、ムリな言いのがれをするのです。しかし、あの晩だけはマチガイなくここに居ました。十時から朝方の三時ごろまで、私の相手をしていたのです」
 銀一のアリバイはさらに動かしがたいものがあった。彼は警察の署長官舎へ招かれて、病気でねている署長の母をモミ療治し、そこへ出先からおそく帰ってきた署長が一ツたのむと云うので、これを一時ごろまでもんでいた。それから妾宅へ廻ったのである。
「流しの犯行ときまったね」
 と、虎之介が軽く呟くと、新十郎は笑いながら、
「犯人はオカネをしめ殺したのち、フトンやアンドンを片隅へひきずりよせて、部屋の中央のタタミとネダをあげて、壺をとりだして金を盗んでいるのですよ。ほかのとこ
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