やわらかく、シンミリと。これが先生のおもとめのモミ療治で。持病がお有りですから、特別のモミ療治を致すようで」
 石田屋へ行った。弁内を呼びに行った女中が答えて、
「アンマをよんでくれと仰有《おっしゃ》ったのは、足利の仁助さんというチョイチョイお見えになる方です。お泊りの時はたいがい弁内さんをお名ざしで呼ぶのです。仁助さんのあとで、もう一人の方をもみましたが、このお客さんはこの日はじめてお泊りの大阪の薬屋さんとか云ってた方です。アンマをよぶなら後でたのむとお約束して仁助さんの済むのを待ってもませたのです。二人とも堅い肩でめっぽう疲れたと弁内さんはコボシていましたよ。ちょうどお帳場に残り物のイナリズシがあったから、弁内さんはそれをチョウダイして、帰りました」
 これもアリバイはハッキリしていた。
 流しの稲吉にもアリバイがあった。彼は十時ごろ清月というナジミの待合へよびこまれて、十時から十一時ごろまではお客を、十一時から一時ごろまでは待合の主婦をもみ、夜泣きウドンを御馳走になって帰った。
「あのアンマは小僧ながらもツボを心得ていて、よく利くんですよ。チョイチョイよんでやるもんですから、とて
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