ッこみだしたのを聞きましたよ」
「すると、あなた方が仕事にでると、まもなく婆さんは眠ったわけだね」
「たぶん、そうだろうね。茶づけを食ッちまやがると、たちまちウワバミのイビキでさア。私らには分らないが、なんでも片目をカッとあけて眠ってやがるそうで。怖しいの、凄いの、なんの。二目と見られやしないという話でさアね」
一人ペラペラまくしたてるのは弁内だけだった。
今とちがって火葬の設備が悪いから、夜分にならないと家族たちは戻らない。新十郎一行は一廻りして、一同のアリバイを確かめることにした。表へでると、通りを距てて、筋向うが焼跡だった。
「この火事は近頃のものらしいですね」
「十日か、十二三日も前でしたか。夜中の火事でしたが、風がなかったので、運よくこれだけで食いとめたそうです」
と、古田が新十郎に答えた。
アンマ宿から一番近いのは妙庵のところ。三四十間ぐらいのものだ。角平のアリバイはハッキリしていた。
仙友はいかにもお医者然と取りすまして、
「私が迎えに参りまして、それからズッと角平はここに居りました」
「十時半から三時まで、たったお一人の方をもみつづけたのでしょうか」
「軽く、
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