ませんや。四分六の歩合ですよ。私らが四分で。もっとも、稲吉は見習だから、稼ぎはそッくり師匠の手にとられます。この節はどの町内もアンマだらけで、もう東京はダメでさア」
 弁内は相変らずオシャベリだった。
「オカネさんの晩酌は毎晩のことかね」
「ヘエ。左様で。私らに食事をさせてから、独酌でノンビリとやってるようで、独酌でなきゃア、うまかアないそうですよ。師匠がウチにいても、師匠に先に食事をさせて、それから一人でやってまさア。もッとも、師匠はいけない口ですがね」
「晩酌の量は?」
「一晩に五ン合とか六合てえ話だなア。キチンときまッた量だけ毎日お志乃さんが買ってくるんで、誰もくすねるわけにいかねえというダンドリでさア。それをキレイに飲みほして、お茶づけをかッこんで、ウワバミのようなイビキをかいて寝やがるんで」
「婆さんは毎晩いつごろやすむのかえ」
「こちとら時計の見えねえタチだから、何時てえのは皆目分りやしねえや。酔ッ払ッて、ガミガミうるさく鳴りたてやがると、そろそろお酒がなくなるころで、あの晩は私らが仕事にでるころ、そろそろ茶づけが始まってたね。私やハバカリにしゃがんでるとき婆アが茶づけをか
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