なんです」
「それは、おもしろい」
新十郎は呟いた。
そして、支度のできた新十郎一行は人形町の現場へおもむいた。それはもう二日目で、一応の調査が終って、ネダもタタミも元におさまり、何事もなかったようになってからだ。
その日は葬式で、身内の者はオカネの遺骸を焼きに出払っており、三人の弟子のメクラだけが留守番をしていた。
新十郎一行はメクラ三人と一しょにスシを取りよせて食べながら、
「目の見えない人はカンが良いというが、あなた方には、隣室なぞに人の隠れている気配などが分りやしないかね」
「そのカンは角平あにいが一番あるが、私らはダメだね」
弁内が答えると、角平が口をとがらせて、
「オレにだって、そんな、隣りの部屋に忍んでいる人の姿が分るかい。バカバカしい」
「ハッハ。見えるようには、いかねえや。だが、あにいには大がいのことが分るらしいね。化け物婆アも、お志乃さんも、そう云ってるよ。石頭で、強情ッぱりだが、メクラのカンだけは薄気味わるいようだ、とね」
「バカにするな」
角平が真剣にムッとしたから、新十郎はとりなすように話をかえて、
「あなた方の御給金は?」
「給金なんてものはあり
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