イがあった。
一足おくれて、稲吉が流しから戻ってきた。つまり、犯行は十時半から一時ごろまでの間であろう。
三時すぎに角平が戻ってきた。一足おくれて、お志乃が戻ってきた。
一時すぎから三時すぎまでの間にも戸締りのなかった二時間の空白がある。しかし、警官が駈けつけた午前四時にはオカネの死体はまったく冷くなっていたし、タタミやネダをあげるという大仕事を、耳さとい二階のメクラたちに知られずにやれるとは思われない。弁内と稲吉はしばらく寝つかれなかったというが、怪しい物音はきかなかったと言っている。
「六人家族と云っても、目玉は合計一ツ半しかないのです」
と、新十郎を呼び迎えにきた古田巡査が報告した。
「一ツというのはお志乃。半分はオカネ。オカネの片目はボンヤリとしか見えないのです。そのオカネが殺されて、残った目玉はたッた一ツ。目玉のない連中のことですから、何をきいても雲をつかむようらしいですな」
「縁の下に壺が隠されていたこどは、一同が知っていたのですか」
「さ、それですが、あとの五人は一人もそれを知りません。主人の銀一すらも知らなかったと申しております」
「主人の銀一すらも?」
「そう
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