と、外へでる。にわかに酔いがまわってきた。そして、それからどうしたかハッキリした覚えがないが、どうやら方々うろつきまわったようである。ころんだり、ぶつかったりしたようだ。
 けれども家へ戻ると、さすがにいくらか正気が戻ってくるのは、よっぽど妙庵先生が怖いのだろう。とは云え、酔っ払いの荒々しい動作が全然おさまりはしないから、
「シッ!」
 角平にたしなめられて、
「ヤ。角平か。すまねえ、すまねえ、どうも、長時間、相すみませんな」
 柄になく、あやまって、匆々《そうそう》に寝床にもぐりこんだ。彼が一パイのんで戻ってくるまで、患家の使いを撃退役にアンマをもみつづけてもらうのがいつもの約束であった。
 仙友が戻ってきたから、角平はさっそくアンマをきりあげて、立ち上る。外へでたが、まッすぐ家へ戻らずに、反対側の賑やかな通りへでて、仙友の行きつけの一パイ飲み屋のノレンをくぐった。
「一本つけて下さいな」
「オヤ、めずらしいね。たまには顔を見せなよ」
「ヘッヘ。不景気で、それどころじゃないよ。今夜はようやく二人目さ。おまけに一人は三時間ももませやがる。仙友の奴め、ずッとここに飲んでたんですか」
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