かかっていたのである。伊勢屋の隠居はお志乃の旦那の一人であった。
オカネは出ようとするお志乃の後姿に向って、
「一日二十四時間、夜も昼もアンマにゃア働く時間なんだ。一晩に旦那を一軒まわりゃア用はねえと思ってやがる。旦那なんて丸太ン棒はテイネイにさするんじゃねえや。いい加減にきりあげて、さッさと帰ってこい。テメエから身を入れてさすってやがる。助平アマめ」
貧乏徳利の冷酒を茶ワンについでグイとあおりながら当りちらしている。これがオカネの唯一の人間なみのゼイタクだが、オカズはいつもオシンコだ。
そこへ表の戸を叩いて、
「今晩は。オヤ。暗いね。もうおやすみですか」
「アンマのウチはいつも暗いよ。チョウチンつけて歩くアンマは居やしねえや」
「石田屋ですけど、弁内さん、いますか」
「弁内! いるかとよ!」
オカネの吠え声に、二階の弁内、ドッコイショと降りてくる。
「石田屋さんだね」
「ええ。すぐ来て下さいッて」
「お客さんは、誰?」
「いつもの足利の人ですよ。ほかにもお願いしたい方がいるそうです。お願いします」
と、商人宿石田屋の女中は帰って行く。弁内は二階で着替えながら、
「どうやらお
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