ころという大切なところであるが、彼は主家の娘トミ子を妻に与えられ、今までの浅からぬ主従関係はさらに血族の縁に深まり、末代まで主家の屋台骨を背負う重任を定められたのであった。
 これも一ツには彼の父が二心なき番頭として今日の主家の屋台骨を築くに尽した功績の大いさにもよるのであったが、また一ツには、トミ子が生来の病弱で、他家に入って主婦の重任を尽しがたいせいもあったのだ。
 トミ子は重二郎に嫁して、父や良人の心づくしの我ままな結婚生活に恵まれながらも、二児を遺して死んだ。
 この二児は主家の外孫に当る上に、主家の子供が病弱で次々と死ぬから、特に疎略にはできない。そこで重二郎は主家に対して忠実な番頭であるためには、自分の子供に対しても忠実な番頭的存在である必要があって、この二児をまもるために、再婚するわけにゆかない。主人の喜兵衛がその妻を失ってのち妻帯しないから、彼も同じようにしなければ義父に義理が立たないような遠慮も必要だったのである。
 重二郎の下に、一助(二十七)、二助(二十五)、三助(二十二)と順に符牒でよぶ定めになっている三名の小番頭がいる。その下に平吉、半助という小僧がいるが、い
前へ 次へ
全69ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング