ずれはこれも何助という小番頭に出世が約束されている。この五名もそろって秋田地方の出身であった。
松茸に似た毒茸もいろいろあるが、山キの二名の孫のイノチを奪ったものは、特に松茸にそッくりで、タテにさける。これは秋田の山間の限られた地域に見かけることができるもので、山キの主従はその毒茸の発生地域の出身であった。これはその土地の方言で、ヅラダンゴだの、ヘップリコなどゝよばれている猛毒のものだ。
本宅の者は材木の買いつけに生れ故郷との往復もヒンパンであるから、地方で育った小番頭や小僧は云うまでもなく、東京生れの喜兵衛も重二郎も生地|名題《なだい》の毒茸の知識はあった。台所の主権をあずかるオタネ婆さんも生国の毒茸を見あやまるようなことはない。
ところが運わるく向島の寮には、この毒茸を見破る能力ある者が一人もいなかった。病身の清作は東京以外を知らないし、チヨも女中たちも生粋の東京人だ。関西とちがって関東の者は概ね松茸についてファミリエルな鑑賞にはなれていない。ホンモノと毒茸とを並べて見比べれば疑問の判定はつくのだが、ヘップリコだのヅラダンゴという概念を持たないから、寮の人たちは怪しまなかった
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