も知れません」
すると虎之介が思わず嘆声をもらして、
「実に驚き入った人物だなア。木場の旦那とは、町人ながらも、こういうものかねえ。あの火焔をくぐって事を行うには、思慮分別だけで済みやしないねえ。血気だけでも、むずかしい。六十一の老人じゃア塚原卜伝ぐらいの鍛錬がいる仕事だね。私は喜兵衛という人物のあの気合には、ことごとく驚いたねえ。すさまじいさッきの姿が目にちらついて、三四日はうなされそうだね。棺桶の上に立っていたあの姿。発ッ止、発ッ止、打ちこむような勢いで我々の方へ歩み進んだあの姿。実にどうも驚き入った気合だねえ。ふりむいて元の場所へ戻って行った後姿にも寸分のスキもありやしない。あの歩みの若々しさ。実におそれ入った神業だねえ」
新十郎は目をまるくして、
「さッきの名なしの権兵衛さんが喜兵衛さんだと仰有るのですか」
「当り前じゃないか」
「なるほど私が牛なら、あなたはどうしても牛ではないです」
新十郎はベソをかきそうに呟いたが、やがて気をとり直して、
「喜兵衛さんは先刻私が演じたように、棺桶にねてダビ所へ担ぎこまれ、火消人足が棺をかこんで木やりを歌ってる最中に素早く変装し、火消人
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