退去した……」
 新十郎は一息ついて微笑して、
「全然無事でもないようでしたがね。なんしろ、その人物は喜兵衛さんではないから、自分が扉をあけて出てくるわけに行かない。相当に火が廻ってから、かねての打ち合わせ通り誰かが喜兵衛さんを救いだすフリをして扉を破ってくれるまで待たなければならない。相当に火傷《やけど》の危険があるのです。もっともコマ五郎さんはそれを承知していたからなるべく煙のはいらぬように、蟻のいや、煙の出入のスキをふせぐために念を入れて仕上げましたし、中の人物も火消装束に身をかためて危険に備えていた。そして床上にうつぶして救いを待っていたが、さすがの火消装束でも完全には露出を防ぎきれないので、全身に四ヶ所だけ火傷をまぬかれませんでした。もうその火傷も治ったようですがね。すると、中にいた第二の人物が誰かということは、もはや見分ける証拠がありますまい。なぜなら、この人間は誰か? 皆さんはそれを知りたがるようなヤボな人ではないでしょうから。また、どこにも犯罪はなかったからです。喜兵衛さんがチャンと室外へでたことは皆さんが知っています。しかし、あなた方以外の人が目で見たことは、喜兵衛さ
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