す。死体とともに、それを棺桶の中へ入れた人間も一しょに前から居たのです。そして皆さんが出たあとで死体を棺桶に入れたのです。皆さんもこれを疑うわけに行きますまい。ごらんの通り、カラの筈の棺桶の中には屍体に代る人形がありましたし、生きた一人の人間も、こうしてチャンと中に実在していたではありませんか」
新十郎は笑ってヤマ甚を見て、
「本日の私たちの実験は扉をあけて、人形と生きた人間を中から出してきました。ところが、あの日は、扉に錠がおろされたまま衆人環視のうちに燃え落ちたのですから、屍体は取りだすヒマがなく当然中で焼けました。しかし、屍体は一ツでした。すると、生きた人間は、どこへ消えたのでしょうか? 開かれた扉のほかには外へ出る通路が確実にないのです。ヤマ甚さん。お分りでしょう。お年寄の坊さんが助けに駈け登ったのは、喜兵衛さんのためではなくて、第二の人物、即ち、棺桶が安置される前から、たぶん前夜からすでに室内に屍体とともに居た人、その人を助けだすためでした。老師とコマ五郎さんはわざともつれるようにして扉にぶつかって、扉を倒しました。そして第二の人物は、モウモウたる煙と火消の群にまぎれて無事
前へ
次へ
全69ページ中61ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング