た。
 棺桶の上に、黒装束の人が立っているのだ。火消装束の人である。立っている。棺桶の上に。直立して、生きているのだ。うごきはじめた。棺桶を降りて、一同の前まで進みでた。深く頭巾をたらしているから、かすかに目が見えるだけで、まったく人相は分らなかった。直立不動、無言のまま一同を見まわした。
 新十郎は猛獣のオリの前で小学生の団体に説明する先生のように、
「私がここにチャンとこうして居りますように、私、つまり、あの日の不破喜兵衛さんも火消人足に変装して室内をでてから、再び室内へは戻りません。戻ることはできないのです。ヌケ道もなく、扉には錠がおろされているのですから」
 新十郎は怪人同様一同を見廻して、
「だから中で焼死した人があるとすれば、とにかく喜兵衛さんでないことは確かです。そして喜兵衛さんと皆さんが室内から出て以来、扉には錠がおろされて誰も再びはいる姿がなかったとすれば、実に真相はカンタンです。どこにも謎や仕掛はあり得ません。要するにあの室内にはその前から死体があったのです。しかしホンモノの死体が自分で歩いて行ってカラの棺桶の中にはいるわけには行きません。さすれば、これもカンタンで
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