ら現れる姿がなければ、そのヌケ道の出口に見張っていた火消人足に何かの動きがあった筈ではありますまいか」
「すでに煙がモウモウとあたりを包んでいるし、その日の風の方向を予知してヌケ道をつけておくわけにいかないから、運わるく出口が風下に当ると、出てくる人の姿なんぞはてんで見えやしますまい」
「そこが甚だ問題です。出てくる姿が分らないほど煙のたちこめた中を出てくることができるでしょうか。ヌケ道は縁の下になければならないが、そこは枯れ柴がギッシリつまっていますから、いったん煙や火がまわると、役者が花道を歩くように歩けるとは限りませんが。そのときの危険にそなえて見張っている者の用意を忘れるほど木場の火消が火をあなどっていたように考えられるでしょうか。火や煙をくぐって出てくる筈の人は商家の旦那でお年寄です。火になれた火消人足とはワケがちがう。万一にそなえる用意も必要だし、さすれば危険の火勢がせまったとき、当然見張りの人足たちから先ず騒ぎが起ったろうと思われますが」
 ヤマ甚は聞き耳をたてていたが、考えあまったような顔をあげて、
「なるほど。仰有る通りのようだ。煙をくぐって縁の下を出るとすれば、万一
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