が居なくちゃア合わない理窟だ。八百人の見物人の目があったにしても、この目は正面の一方にしか利かない目だ。三方はこれをとりまいた火消人足の目がきくだけだから、ヌケ道からそッちへでても八百人の見物人には分らないという趣向だったと思いますねえ。このヌケ道をふさいだ奴があったんだ。コマ五郎はわざと見物の人にこれ見よがしに錠をおろしたが、それは錠のおろされていないヌケ道があったという証拠でしょうね。扉に錠をおろしたコマ五郎が犯人ではなくて、誰かヌケ道に錠をおろした奴が本当の犯人だと思いませんか」
 新十郎は同感をあらわして、うなずいた。
「御明察の如く、元来の趣向は予定狂って死んだと見せて、ノコノコと現れる筈でしたろう。すくなくとも火消人足が信じていたのは、そうでしたろう。ですが、どこにヌケ道があったのでしょう。また三方をとりまいた火消人足の目をかすめて、誰かがそこに錠をおろしうるでしょうか」
「前夜のうちなら出来ませんか」
「ところで、お説のように火消人足たちが実は誰も死なないという裏の趣向を心得ていたとすれば、たぶんヌケ道の所在も心得ていたでしょう。ところが危険がせまる火勢になってもヌケ道か
前へ 次へ
全69ページ中50ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング