している。にわかに煩悶の堰が切れたらしく、
「ウム。ひょッとすると、三人か。チヨ女のおナカの子を加えると四人……」
 物騒な計算をしている。が、これにはシサイがあったのである。

          ★

 田舎育ちの通人が都風の粋な情緒に特にあこがれを寄せるのは理のあるところで、花廼屋は大そうな為永春水ファン。深川木場は「梅ごよみ」の聖地、羽織芸者は花廼屋のマドンナのようなものだ。そこで折にふれてこの地に杖をひき、すすんで木場の旦那にも交りをもとめて、文事に趣味もある喜兵衛とはかねてなにがしの交誼をもっている。
 そこで彼は山キの内情とか、木場全体における山キの位置や立場などにも一応通じていた。特に山キの二人の孫が変死して以来は持って生れた根性がムクムクと鎌首をもたげて、多年の聖地に向って甚だ不粋な探偵眼をなんとなく働かせるに至っていたのである。
 それというのが、山キの二人の孫の変死は他殺に相違ないからであった。それもよほど計画的な他殺であろうと彼は睨んでいた。
 清作は病身で、家業に身を入れれば死期を早めるにすぎないようなものであるから、彼と妻子は本宅に住まずに、向島の寮に住んで
前へ 次へ
全69ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング