所に安置する。このダビ所はコマ五郎が輩下の大工を指図して年の暮から丹精こめて新築したもの。これに棺桶をおさめて火をかける。パッと火がもえあがったときにダビ所の扉を排して現れ出ずるは赤い頭巾にチャンチャンコ。生れかわった喜兵衛である。
これより葬式変じて還暦の盛宴となる。メデタシ、メデタシ、というダンドリだった。
こういう葬式だから、喪服の参列者が目につかないのは当然だが、その人々にまじって、ちょッと風俗の変った二人づれ。洋服のヒゲ紳士は花廼屋《はなのや》、珍しや紋服姿の虎之介。この二人がなんとなくシサイありげに同じ目的地へ向っているのである。花廼屋は野づらを吹く左右の風を嗅ぎとって、
「フム、近づくにしたがって、次第に匂うなア。神仏混合ハナの屋通人という通り、ハナが利くことではハナの長兵衛に劣らぬ生れつきだて。このハナが嗅ぎわけたところでは、もはや疑うところがない。今日は誰か殺される人があるぜ。一人かい? フム、フム。二人かい? フム、フム」
いつもならば必ず反撃の一矢を報いる虎之介が、花廼屋の言葉も耳につかぬていに沈々と思い余った様子に見えるのは、甚しく同憂の至りであることを表
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