「人の姿にさえぎられて、喜兵衛の姿があなた方の目を放れた瞬間は?」
「それは、あなた、十六人の坊主がとりまいてクルクルとまわる。五六十人の火消人足が棺桶をかついでダビ所へ送りこんで木やりを歌う。時には見えない時もあろうさ。だが喜兵衛はたしかに棺桶にはいりました。そのままフタを釘づけにしましたねえ。ここを見落すほどモウロクもしないつもりだが」
「棺桶の大きさは?」
「当り前の大きさだね。材木は上物だろうが、大きさは並より大きいものではない。喜兵衛はガッシリした身体つきだが、並以上の大男じゃアないねえ。再びロッテナム美人術の手口とのお見立てらしいが、二重底の仕掛けにだまされる私らじゃアないらしいようだなア。ハッハッハア」
 それから三日目。新聞の片隅に、重二郎の姿が見えないという記事を見て、新十郎は花廼屋と虎之介をさそい、
「重二郎の姿が見えないそうですが、探しに行ってみませんか」
 こう云われて二人はにわかに思い入れよろしく、
「そこだよ。私もねえ。当日ここをたつ時から本日の被害者は一人じゃないと見ていたね」
 三名は本宅を訪ねて使用人一同にきいてみると、小僧の平吉と半助が、
「番頭
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