も知れないということは、まだ考えた者がなかった。そこに最初に目をとめたのは、新十郎であった。
★
花廼屋と虎之介の心眼は直覚的に犯人はコマ五郎と見破ったが、その狙いあやまたず、コマ五郎の逮捕を見たから、ちかごろの警官もチョイとやるようになったなア、とアゴをなでつつ、帰京した新十郎に報告した。新十郎はきき終って、
「コマ五郎の輩下の者どもが、焼跡に誰かが死んでいると口々にフシギがって言い合ったのは、あなた方もききましたか」
「いえ。私らはきかないねえ。そんなこたア問題じゃアない」
「それを見た聞いたと云った人は、どんな人ですか。たとえば、女中、芸者。旦那衆……」
「そう。旦那衆も五六人、いたねえ」
「その旦那衆とは?」
「木場の旦那さ」
新十郎はジッと二人を見つめて、
「山キの主人が頭をまるめ法衣をまとって棺桶にねてから、フタをとじて担ぎだしてダビ所に安置してコマ五郎が扉をしめ錠を下すまで、あなた方は目を放さず見ていたのですね」
「そこは、あなた、本日必ず事件ありとチャンと見ていた私らだねえ。参列者の最前列へでて、一部始終を寸刻も目を放さずに見てとりましたねえ
前へ
次へ
全69ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング