れてギクリとしたのだ。ちょッと、変だった。
 しかしコマ五郎は引ッ立てられてしまったが、その後に至って妙な情報が集ってきた。
 燃え落ちてまもないころ、焼け跡から戻ってきたばかりのトビの者が三々五々、
「オイ。見たか。誰かが本当に死んでやがるぜ」
「シッ!」
 気転のきいた者が目顔で制する前に、トビの者にはアチコチにこういう動揺があった。それを目にとめ耳にとめた参会者が二十人ほども現れた。
 警官もすててはおけないから、コマ五郎の輩下をよび集めて、一々訊問したが、
「バカバカしい。死人のいるのが当り前さ。誰がそんなことを言いますかい」
 いずれも歯ぎれよく一笑に附するばかりであるから、むろんそうあるべきことと警官はもとより参列者も納得して、それなりになって事はすんだかに見えた。
 と、翌日の朝に至って、重二郎の姿がどこにも見えないのが、はじめて問題になってきた。重二郎は当日本宅に留守を預っていた筈であるが、実はそこに居なかったことが本宅の女中の言葉で明らかとなった。重二郎の私宅を調べると、お加久という老婆が、
「旦那はその前日出たきりですよ。翌る日はオトムライの日だから、今夜は泊りだよ
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