「ユーテキはそうでもないそうで」
「コレ。コマ五郎。山キの主人を殺した者はキサマにきまったぞ。キサマが扉に錠をおろして火をかけたことは八百人の会葬者がチャンと見ていることだ。ソレ、縄をうて」
 コマ五郎は顔色も変えず手をまわして縄をうたれつつせせら笑って、
「錠をおろしたのは御見物の皆様をハラハラさせてパッと出ようてえ旦那の趣向さ。内から扉をひけば錠の釘がぬけるように仕掛けたものさ。焼けてからじゃア錠の仕掛けが分らないかも知れないが、かほどの趣向を立てるからにゃアゾッとすくむところまでやりたいのが当り前というものだろうね」
「ハッハッハ。キサマもトビの頭《かしら》だが、扉をひけば外れる錠なら外から押しても外れる筈と分らないのがフシギだなア。人のかたまりが扉に当って、二枚の扉ごと外れたのは、錠がシッカリかかっていたという言いぬけられぬ証拠だ」
 意外や、不敵なコマ五郎がチラと顔色をかえて、目が鋭く光った。
「なるほど。そうかい。いいところへ気がついたねえ。ハッハッハ。こいつァいけねえ。オレの負けだ。旦那、お手数をかけやした」
 コマ五郎はカラカラと笑った。取調べの警官の方が毒気をぬか
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